役員会は2時間ほど掛かった。春の人事と従業員就業規則改定の承認が主な議題だった。

どの案件も役員会に掛けられる前に十分な検討がされており、役員会で否認もしくは差し戻す事は滅多にない。言ってみればただ承認するだけなのだが、説明やら何やらで2時間も掛かってしまった。


長く退屈な役員会はようやく終わり、自分用の役員室に戻った俺は、さっさと引き上げて屋敷へ戻ろうと思っていた。すると、コンコンと扉を叩く音がし、俺が返事をする間もなく扉はスッと開けられ、スーツ姿の大柄な男が現れた。


「おお、まだ居たか」


現れるなりそう言ってニヤッと笑った男は、咄嗟に予想した通りなのだが、親友の直江兼続だった。秘書にアポもなく、いきなり扉を叩く人間は彼ぐらいしかいない。


「なんだ、兼続か。何か用か?」

「用って程のものではないが、おまえに抗議したくてな。どうせ役員会が終われば帰ると思ったから、急いで来たわけだ」

「さすがだな。確かにそろそろ帰るところだった。で、抗議って何だ?」

「惚けやがって……。これだよ」


兼続はテーブルの上にバサっと雑誌を放り投げると、ソファーにドスンと腰を下ろした。