間もなくしてみんなが応接間に戻って来た。それと爺やも。


「慶次君から聞いたと思いますが、浅井菊子さんにははっきりお断りをしました。爺や、あの方達はもう帰ったよね?」

「はい。つい先ほど……」

「信之さん。浅井菊子さんを断ったのは仕方ないとしても、どうするおつもりなの? あまり時間は無いのよ?」


咎めるようにそう言ったのは母だ。“時間が無い”というのは、亡父の遺言の期限、つまり俺の35歳の誕生日まで2ヶ月ちょっとしかなく、その事を言ったものだ。


「急いで他の令嬢から候補者を探すほかないですな。慶次、令嬢達の写真と書類をすぐに持って来なさい」

「はいはーい」

「待ってください」


叔父から言われた慶次が、軽い返事をして腰を浮かせたのを、俺はすかさず止めた。当然ながら、みんなの目は一斉に俺に向けられた。


「その必要はありません」


俺が一言そう言うと、みんなは唖然とした顔をし、シーンと静まり返った。


「信之さん、急ぎませんと時間が……」


その静寂を破ったのは叔父で、


「そうよ。慶次、持って来なさい」


と叔母は言い、


「まさかあなた、結婚しないおつもり?」


と母が言い出すと、みんなは途端に息を飲んだ。そういう選択肢は俺にもなかったので、俺もちょっと驚いてしまったのだが。


「そんなバカな。ねえ、信之さん?」

「それはないです。結婚はしますよ」


俺がそう言うと、みんなは安堵の溜め息をついた。


「では、他の令嬢からお相手を……」

「いいえ。相手は既に決まっています」