あたし、与えられないということが、こんなに怖いなんて知らなかった。
大人になることが、こんなに怖いなんて、知らなかった。
「っげほ、けほ…っ、けほけほっ、うっ…」
…だから、自分のできることを探したかったんだ。
どこでもいい。
誰のためでもいい。
あたしも誰かに何かを与えたい。
自分から与えなきゃ、与えられないんだって、それが当たり前なんだって、やっと気づけたから。
「…っ、がんばろう、って、思った、のに…」
涙も声も出ない。
言葉にできない、でも確実に背後に迫っている、巨大な不安の塊。
それが怖くてしかない。
「おい」
―――その時、さっきの冷たい声が頭上から降ってきた。
恐る恐る顔を上げると、そこには少し息を切らしている紺野さんがいた。
右手には、コンビニの袋をさげている。
「口開けて下さい」
「え」
「開けろって言ってるんですけど。聞こえないの? バカなの?」
「ひっ、すみません」
あたしは急いで口を少し開けた。
すると、口の中に一瞬でミントの味が広がった。
「ぐっ、あたしミント苦手なんですが…っ」
「もう5個ぐらいいきますか?」
「な、なんのいじめ…っ」
「さっきの咳の仕方、喘息でしょう。一時的にならこの飴で大体止まります。薬は持ってきてますよね?」
「あ、一応…でも…」
「あんまりない? 咳止めなら買えます。でも病院の方が絶対良いです」
「っ」
「こんなとこで救急車沙汰になったら店の売り上げに関わるんで」



