バレた。どうしよう。

そう、思った。

その時初めて、わたしは浮気が悪いことだと気づいていたのだと、知った。

浮気なんて、そんな風に考えてたのは、ただ自分を正当化するためだけだったのだと。



「…しゅうとくん?」


本当に小さな声で唐沢が言った。

わたしはちいさく首を横にふった。

唐沢がごく自然に手を離した。


「え! ゆりっぺ! この人彼氏!? もしや修羅場!? めっちゃイケメンだなっ」

「えっ」


…突然の唐沢の行動に、わたしは驚きを隠せなかった。


「やっべー、手ぇとか無理矢理繋いじゃったよ! 彼氏さんが嫉妬して喧嘩して別れたら俺が責任とるかんね、ゆりっぺ!」

「いや、俺彼氏じゃないし…」

「えっ、そうなんすか! なんだあー俺ゆりっぺのこと好きなんで、今猛アタック中なんすよー」

「……へぇー」


唐沢の言動1つ1つに冷や汗が止まらなかった。

幸い唐沢は頭の切れる男だ。口もうまい。

下手に黙られるより、こうしてわたしへの好意をむき出しにしてくれた方が、潔いし疑われずに済むかもしれない。

わたしは無理矢理唐沢に振り回されてるって体で演技をしなきゃ。咄嗟にそれを理解した。


光流君は言っちゃなんだけどバカそうだし、頭軽そうだし、騙されやすそうだし、乗り切れそう。

そんな風に唐沢に圧倒されてる光流君の表情をうかがいながら、自然に話す言葉を選んでた。


「猛アタックされてんの? 由梨絵ちゃん」

「あ、なんていうか…、ふったんですけど、一回だけデートしてってしつこくて…」

「あーそしたら諦めるから的なやつだー。俺もよく言われるー」

「そうなんですよ…、柊人君にも許可取らなきゃなって思ったんですけど、ふったのは事実だししつこかったから…これで諦めてくれるならって…」

「それどうでもいいから。諦めるの? 猛アタックなの? どっち? 言ってること食い違ってるよ、二人」

「!」

「あんまりなめた口聞かないでくれる? お坊ちゃんお嬢ちゃん」

「あ…」


しまった。誘導された。

光流さんの方がうわてだった。

終わった。なにもかも。

わたしは、表情をかたまらせたまま、光流君の鋭い瞳から見える静かな怒りに震えあがっていた。

…ふりをした。