“一般的に”
“ふつうは”
わたしの大嫌いな言葉たち。
一般的、ふつうってなに?
自分の中で勝手に引いた常識の枠の中に、おさめようとしないでほしい。
わたしはわたしが一番“ふつう”であると思ってるし、間違ったこともしてないと思ってる。
それはみんなそうでしょう。自分がふつうだって思う感覚がだいたい近い人と友達になったり、恋人になったりするでしょう。
だからわたしはわたしの恋愛の仕方が正しいと思うし、自分に一番合ってる“ふつう”の恋愛だと思ってる。
「今日は危険日だからこれ以上はダメ」
「えー」
「また今度ね、唐沢」
外されたネクタイを整えて、男の肩を押した。
誰もいない体育館倉庫。帰宅部のわたしが放課後に寄る必要はない場所。
暗がりの中で、男は物足りなそうにわたしの上からどいて、わずかに漏れた光を頼りに、服を着た。
布の擦れ合う音だけが静かに響く。
「…まだ彼氏と付き合ってんのおー?」
「ラブラブ」
「へえ、こんなことしてるってバレたら速攻破局なのにねえ」
「バレるわけないよ、今も部活中って設定だし」
「ゆりっぺ本当歪んでんな。…彼氏のこと、どうしたいわけ?」
「柊人君は一生わたしの物。これはもう決まってるの」
「でもゆりっぺはしゅーとくんの物じゃないんだろ?」
「わかってんじゃん」
「女ってこえー」
ふ、と鼻先で笑ってしまった。
歪んでるって言葉が、的確過ぎて。
世間的には、“浮気”と言われる行為だ。そんなことは分かってる。
だけど、わたしの中で浮気という行為がとくにおかしなことだとは思わない。それだけのこと。
純粋ぶってるどの女も、一度くらい彼氏以外の人にときめいたことはあるはず。
行為の度合いが違うだけで、“浮気は浮気”。やってることは一緒でしょう?



