「しかも法学部って、モテるしかないっしょー」

「………」

「動機は不純だけど、でもその目標があったから受かったしな。実際めっちゃ勉強したし」

「目標……」

「予備校時代とかもうキチガイだったね、飲食以外席から立たなかったし、昼休みも単語帳読んで飯食ってたわ」

「そんなにモテることに熱心だったんですね…」

「そう。あの時の俺は熱かった。なぜならモテたかったから」

「………」


この人本当に黙ってた方がモテると思う。

あたしは何だか残念な気持ちになりながら、サイダーを飲み干した。

その冷めた視線が伝わってしまたのか、光流君はなんだよ、とわたしを睨んだ。


「光流君はかっこいいんだから何したってモテますよ」

「ぶっ」

「わあー! なにふいてんですか、ばっちいっ」

「真冬はっ」

「え、はいっ」

「俺と紺ちゃんのどっちがかっこ…」


と、光流君が何か言いかけたその時、紺君が部屋に入ってきた。

気付けばランチの営業は終わっていて、準備時間にはいっていた。

紺君はあんたらいつまで休んでんだ、と言わんばかりの目つきでわたしたちを見てから、冷蔵庫からアセロラジュースを取り出した。

あたしと光流君は気まずい空気を察し、光流君がアセロラジュースを紺君のコップに注いだ。わたしは目の前のスナック菓子をさっと紺君側に寄せた。


「…光流、飲み終わったらで良いけどおしぼり丸め直してあっためといてください。あと伝票の番号書いといてください、それ飲み終わったらで良いですけど」

「…はい、今すぐ飲みます」

「真冬、お通し作ってトイレ掃除して補充して洗ったお皿元の位置に戻しておいてくださいそれ飲み終わったらで良いですけど」

「…はい、今すぐ飲みます」

「光流は18時からあゆ姉と交代だからそれまでにやるべきこと終わらせといてくださいね」

「…紺ちゃん今日なんかいつにもまして機嫌悪くない?」

「……………は?」


紺君の冷徹な瞳を見て震えあがったわたしたちは一気にサイダーを飲み干して休憩室を後にした。

紺君があんなに感情をむき出しにすることなんて滅多にない。

何かがあったことは間違いなかった。

一階に降りて光流君と一緒におしぼりを丸めながら、ちらちらと店長の表情をうかがった。