「どうしたんですか、しっかりしてください光流君!」

「いやむしろ全然しっかりしてきたけど」

「そんなんじゃただの良い人になっちゃいますよ!!」

「どういうことだコラ! サイダー持ってこい!」

「いてててて」


光流君にほっぺを抓られた。

だって光流君はダメダメなところがあってこその光流君だったのに…。

相変わらず部屋にミスマッチなテーブルに、わたしは頬をさすりながらコップを2つ置いた。

無色透明なサイダーの泡が、シュワシュワとはじけては消える。

それを見た瞬間だけ部屋の暑さを忘れられた。

クーラーがきいてる筈なのに、2階のせいもあってか、部屋は生暖かい。

光流君があたしが持ってたうちわを取っちゃったから、わたしは仕方なく手で顔をあおいだ。


「そういや光流君て何学部なんですか?」

「ん? 法学部」

「え!?」

「おいなにビックリしてんだよ」

「だ、大学は…」

「澪条大」

「頭よっ」

「まあなー。一応高校も超進学校だったしーがり勉よ」

「あたしのお兄ちゃんも澪条大法学部ですよ」

「えっ、まじ?」

「まじです」


まさかこんな共通点があるとは。

そしてまさか光流君がそんなに頭が良いとは。

澪条大はあたしも受けさせられたけど全く歯が立たなかった大学だ。

ネームバリュー優先で、どんな学部でもいいから有名大以上に必ず合格しなさいと言われていた。

今でも勉強漬けだった毎日を思い出すと、胸が苦しくなる。

参考書や予備校の費用なら、まったく惜しまない母親。

昼食代は毎日5千円貰っていて、こんなにいらないよと言っても、母はお金を与え続けた。

お財布と不安とプレッシャーは、どんどん膨らんでいった。

飲食コーナーでサンドウィッチをひとり齧っていた光景は、今でも鮮明に思い出せる。

光流君もそんな風に、地道に勉強した時代があったのかな。



「光流君てすごい人だったんですねー」

「えーだってさー、難関大いけばとりあえずインカレでモテモテじゃん? そりゃ頑張るよねー」

「………」