“金持ちの両親にずっと甘やかされて育った女なんか――…”
…悔しい。
あんな風に言われて、一言も言い返せなかった自分が悔しい。
だって、全部あってる。一つも間違ってない。それがあたしの評価の全てなんだ。
与えらえた高校。
与えられた進路。
与えられた将来。
全てが受け身だった、自分。
社会はこんなに広いのに、どうしてあたしには選択肢がないんだろう、なんて、疑問にすら感じなかった。
何もかもがそこに用意されていて、最初から選択肢なんてなかった。それが当たり前だと思ってた。
けれど、センター試験の当日、気づいてしまった。
もし、落ちたら、この先には、社会には、与えられるものが何も用意されていないことに。
そうしたら、急に、世界の色が無くなって、どうしようもなく生きることが怖くなった。
…指が、震えて、動かなかったことを今でも覚えている。
涙も声も出ない。
言葉にできない、でも確実に背後に迫っている、巨大な不安の塊。
試験中、肩を震わせて、一人で泣いていた。
――例えば、明日があたしの20回目の誕生日だとして、
あなたは明日から完全な大人ですよ、と言われたとして、
だからなんだって言うんだろう。
一体あたしの何が変わるんだろう。
何が用意されてるっていうんだろう。
ランドセルからセーラー服に変わって…ブレザーを着ていたたった3年間の日々なんか、あっという間だったように思える。
毎日7時に起きて、課題やって、部活やって。
そこに‘学校’があったから、当たり前のようにやってきたこと。
今まで淡々と与えられてきたものが、今、全て無くなってしまった。



