…真冬は、もしかして嫌がらせを受けていたのか?

俺を、かばったせいで。



『あー、なんかもう、辞めようかな…バイト』



他人をかばったせいで嫌がらせにあって、でもそれを誰にも言わないで、俺にも言わないで、耐えて仕事を続けていた人に、俺はなんて言ったんだ?

辞めようかな?

ふざけんなよ。一番辞めたいってあの時思ってたのは誰だよ。真冬じゃんかよ。



「っ……」



真冬じゃんかよ。



「桜野さん、あれ、黙っちゃう感じ? それとも大好きな副店長にちくっちゃいますかー? でも今あたしたち辞めさせたら大変よ? 人手少ないのにさー」

「……っさい」

「は?」

「うるさい、性格ブスっ」

「…え」

「あんた達が辞めたってへでもないっつーの!」

「は!?」


――――ショックを受けてぼうっとしていた俺の頭に、真冬の声がスカっと響いた。


「ちょっと…まじ、何? 今制服切ってほしいの?」

「っ」


俺はその瞬間、靴も脱がずに部屋に上がって、女の手を掴んだ。

今、目の前でハサミを持ったまま目を丸くしている女なんかに、どうしてあんな馬鹿な質問をしてしまったんだろう。


俺は、本当にバカだ。


「っあ、光流く…」

「何? これ、超こわーい」

「っ」

「っていうか、顔、怖いよ? まじブッサイク。消えてくんない?」

「なっ…」


女二人は、ハサミを置いて俺を散々罵倒しながら部屋を出ていった。

でも、そんな罵倒なんか一言も頭に入ってこなかった。


部屋の隅で、ぎゅっと体を縮めてる真冬を見たら、訳もなく涙が出て。