俺は、薄い上着を羽織って、下の店におりた。

すると、裏口の前に、一枚の紙が落ちていることに気付いた。

シフト表だった。

どうしてこんなくしゃくしゃになっているのだろう。

俺は、その紙をそっと広げてみた。


「え」


それは、どう考えても無茶のある真冬のシフト表だった。

まるで俺に休みを作ろうとしているかのように、無茶のあるシフト表。

もしかして、俺の分まで働こうとしていたのだろうか。

…バカだ。

どうして、人のためにここまでしようと思えるんだ。


「きゃーっ!」

「っ」


――すると突然、店内から悲鳴が聞こえてきた。

でもそれは間違いなく真冬の声だった。

恐る恐る店内に足を踏み入れてみると、そこには、毛布に包まって脅えながら映画を見ている真冬の姿があった。


椅子に座っているその小さな背中を見ていたら、さっきまでぼやっとしか浮かんでいなかった言葉が、ぽつりぽつりと零れ落ちるように、胸に積もった。


「…っ」


―――誰かに何かを貰うこと自体迷惑です。何も返せないし、反応もできないし、第一欲しいものが無い。

それって、何にも興味が無いってことですか…?

…誰かに迷惑かけてますか?



―――紺君のバカ。



「真冬」


気づいたら、呼んでいた。

真冬に、こっちを向いてほしかったから、呼んでいた。


「え!? 紺くっ、なんで…、あ、いや、これは」

「真冬」

「っていうか、今喧嘩中なんで気安く呼ばないでください!」