ペットボトルを冷蔵庫に戻そうとした手が、かたまった。
真冬、という言葉を聞いただけで、どうしてこんなにも動揺してしまったのか。
冷蔵庫のドアが開いたままということを知らせる機械音が、静かな部屋に響く。
ピー、ピー、と、単調に、正確に。
「真冬ちゃんもDVD探してるみたいだったよ」
「………」
「柊人君、そういうの重荷に感じちゃう人だって教えてあげられたらよかったんだけど…」
「………」
…そうか。
だから、あんなこと聞いてきたんだ。
でも、由梨絵が言ってる通りだ。
誰かに何かを貰ったり、そういうことは苦手だ。
誰かに、自分のために何かをしてもらうなんて、もっと苦手だ。
だって、そんなに優しくしてもらっても、俺は何も返せないから。
だから、真冬がDVDを探してるのは、彼女が勝手にやっていることであって、俺には関係ないし、正直言って迷惑な話だ。
「…どうでもいい話です。それより、由梨絵、明日から部活早いって言ってませんでしたっけ?」
「どうでもいいって、柊人君ひどいなあ」
「もう寝た方が良いですよ」
「はーい。じゃあ、おやすみ、柊人君」
「おやすみなさい」
ピー、ピー。
冷蔵庫の扉は、まだ開いたままだった。
もれた冷気が、俺の脚を冷やしている。
何も考えたくないのに、どうして真冬の言葉ばかり浮かんでくるのだろう。
『…あたしは、紺君に、…興味津々なのに』
そんな風に思ってもらうほど、俺は面白い人間じゃない。
昔から欲が無くて、冷めてて、ロボットとというあだ名がぴったりな人間だ。
だから、真冬に、そんな風に思われても、重いだけなんだ。
「は…」
駄目だ。
頭を冷やしに行こう。



