あたしは、紅茶をぐっと飲み干して、なんでもないですよ、と笑った。

すると、今度は光流君があたしの顔を覗き込んできた。


「お前もしかして紺ちゃんとなんかあった?」

「ぶっ」

「今日1回も紺ちゃんにラブ光線送ってなくない?」

「うううっ、だって紺君が…」


二人の顔を見た瞬間、張っていた気が一気に緩んでしまった。

あゆ姉がそっと背中をさすってくれた。


…結局あの後、紺君は隣の部屋に帰ってこなかった。たぶん、下の店で寝たのだろう。あたしがバカなんて言ったから、怒っちゃったんだ。


だって、腹が立ったんだもん。

こんなにやさしい人たちに囲まれて、それなのに全く関心が無いなんて。

あたし、光流君とあゆ姉も、大好きだから。

だから、腹が立ったんだもん。


「あたし、暫く紺君と話しませんっ」

「あれっ、じゃあお前紺ちゃんのためにDVD探すのやめんの?」

「何でそのこと知ってるんですか!?」

「店長が言ってた。昨日の夜真冬の部屋から悲鳴と鳴き声が聞こえたって。お前怖がりなんだな」

「うううっ、でもDVD探しは続行します! 悲鳴を紺君に聞かれたらバレちゃうから、深夜に店のテレビ借りて観ます…」

「お前健気過ぎー。1回チューしていいー?」

「いやあああああ」


光流君がぐっと顔を近づけてきたけど、すぐにあゆ姉が助けてくれた。

光流君ファンにこんな所を見られたら、と思うとかなりぞっとした。


「でも真冬ちゃん、ホラーが苦手なら、無理しないでね。あたしがいつでも代わりに観てあげるから…」

「そういえばあゆ姉ってホラー漫画家なんでしたっけ…?」

「趣味程度だけどね。だからいつでも協力するわよ」

「ありがとうございます。でも、もう少し頑張ってみます。じゃあ、お先に失礼します」