バン! と音がしたと思ったら、部屋中が一気にお酒くさくなった。

そこには、全身びしょ濡れになった男性が立っていた。


「紺、もしかしてまたあの客達と喧嘩してたのかあ?」

「………はい」

「そんで仲裁して酒被ったのか」

「………まじ…あいつら…人間の…クズ…」


今ボソッとダークな言葉が聞こえた気がした。

けれど、あたしはただただ呆然とすることしかできなくて、そうしているうちに、目の前で『紺』という人が服を脱ぎだした。


「ぎゃあああ」

「こら紺ちゃん、女の子がいるんですよ。気をつけなさい」

「え」

「わたしじゃないですよ。新しい住み込み仲間です」


あゆ姉さんは、あたしをとりつくねの串で指差した。

その瞬間、紺さんの表情が固まった。



――くっきり二重で、恐ろしく眼光が鋭い人。

左目付近にある泣きぼくろがとても印象的で、真っ黒な髪の毛は、お酒で濡れて、より艶やかになっている。

耳には両サイド合わせてピアスが4つ。

黒目がちな瞳が、冷徹にあたしを見下ろしている。


「……誰ですか?」


こんなに冷たい瞳で見つめられたことはない。


目をそらしたい。そらせない。

逃げたい。…逃げられない。


「新人の桜野真冬ちゃん。紺ちゃんと同じ、18歳ですよ」

「紺ちゃん、お前さあ、そうやって無駄に威嚇するクセいい加減治せよ。折角可愛い顔してんだから」

「ちょっと黙ってください、キラキラ光流(ヒカル)」

「ごめん名字重ねるのだけはほんとやめて。童謡みたいになっちゃうからほんとやめて」