「やっぱり来なくていいです。ごめんなさい、無理言って」

「真冬…?」

「あの、ほら、紺君のこと好きすぎていきなり私服なんか見ちゃったら刺激強すぎるっていうかなんというか…!」

「俺、そんなに目に優しくない色の服持ってません……」

「とにかく、大丈夫です!」

「…分かりました。じゃあ、不参加ということにします。光流、そういうことで」


光流君とあゆ姉は暫くあたしの言動に困惑しているようだったけど、あたしは気を紛らわすために一心不乱に掃除をした。

気づくと、手に冷や汗をかいていた。


「………」


あたしが何か我儘を言って、溜息をつかれる。

あたしが悪い成績をとって、溜息をつかれる。

あたしが兄姉と比べられて、溜息をつかれる。


今思うと、あたしは昔から親に溜息をつかせてばかりの子供だった。

額に右手の甲を当てて、小さく開いた口から、だるそうにもれる吐息。

その瞳はひどく疲れていて、あたしを視界にいれようとはしてくれなかった。

今もふとした瞬間に、そんな母の表情を思い出す。



不出来なあたしを見て、仕方ないよねって、母はいつも言っていたけど、

あたしはいつも、

どうしようもない子、って言われている気分だったんだ。


だからあたしは、紺君を困らせたくない。

そりゃあ、紺君が来ないのは嫌だけど、

紺君に、『仕方ないな』って気持ちで、来てほしくない。



我儘を言って、嫌われる方が、はるかに嫌だよ。

怖いよ。