言葉よりも先に、体が動いていた。

あたしは、紺君の前掛けを掴んでゆすっていた。


「な、なんでですか! あたしのことやっぱり歓迎してないんですかーっ」

「真冬、紺ちゃん引いてる引いてる」

「だ、だって、紺君が来なかったらたとえ光流君がイッキしようと一発芸しようと何も楽しくないですよー!」

「テメー真冬っ、あとで紺ちゃんにスリーサイズバラすかんな!」

「いやああああそれだけはああ」


だって、紺君が来ないなんて…紺君が来ないなんて!

折角滅多にお目にかかれない私服姿を見るチャンスが…!

折角どさくさに紛れて写真をいっぱい撮るチャンスが…!

思い切り下心を駄々漏れさせながら紺君の前掛けを引っ張っていると、紺君が困ったようにため息をついた。

あ。もしや、あたし今すごく紺君にうざがられてる…?


「じゃあ、行きます。少し遅れるかもしれませんが」

「え」

「光流、何時頃予定ですか?」

「おっ、粘ってみるもんだな真冬! 明日はいつもより閉店時間早い日だよな? だから、13時ごろあの公園で」

「分かりました」

「ところで用事って、由梨絵ちゃん? そっか、お前明日一日休みだもんな」

「…はい。誕生日なので…でも、その時間なら、行けます」


え。嘘。待って。

この感じ、あたしよく知ってる。

違う。紺君にあんな表情させたいわけじゃなかった。

今度は、考えるより先に言葉が出てた。


「や、やっぱり来なくていいです!」

「え」


言った瞬間、光流君が『お前正気か!?』と突っ込みを入れたけど、それに返している余裕などなかった。

戸惑っている紺君の前掛けから手を離して、あたしは再びモップを掴んだ。