…しまった。

今日は咳止めを飲んでいない。

でも、今日飲んだらもっとひどい時用のものが無くなっちゃうかもしれない。

そう考えたあたしは、必死に咳を押し殺した。


「っく…」


――と、その時、急に携帯が鳴った。

着メロはピーターパン空の旅。

誰だろう。こんな夜中に。お母さんかな。いやまさか。

着信は未登録の番号。

あたしは不審に思いながらも電話に出た。


「もしもし」

「もしもし。紺野です」

「………ええ!? うっ、けほけほっ」


驚いてむせたのか咳をしたのか分からなかった。

ど、どうして紺野さんがあたしの番号を…!?

あたしは思わず布団から這い出てなぜかまくらの上に正座した。


「ど、どどうしてあたしの番号…」

「書類に書いてあったのでメアドと一緒に勝手に登録しました。これから業務連絡とかあるかもしれないので俺のも登録しておいてください。あ、これ業務用の携帯なんで」

「あ、はい…」


なんだ…。

なんだよちくしょう!

人の気も知らないで! しかも業務用かよ!

一気にテンションが下がったあたしは、正座をくずして体育座りをした。

仕事関連じゃない電話だったら嬉しかったのにな。


「ああ、あと」

「なんですか…。そうですか…」

「まだ何も言ってません」

「ううう」

「…どうしたんですか」


…低くて、落ち着いた、抑揚のない話し方。