本当は湯船に浸かりたいけど、お湯を沸かす時間があるなら寝たい。
あたしは5分でシャワーを浴びて、スウェットに着替えて、ベッドに飛び込んだ。
敷布団で寝るのなんて、一体どれくらいぶりだろう。
ずっと天蓋付きベッドで寝ていたから、まだ違和感がある。布団もかたい。部屋だってこの4倍の広さはあった。
でもきっと、これから慣れていくだろう。
ふと、布団の上に放置しておいた携帯を開くと、新着メールが2件。
1件はダイレクトメールで、もう1件はお母さんだった。
あたしの私生活や健康面を心配するメールだったが、どれもどこかで聞いたような言い回しばかりだった。
適当に返して、布団の中に潜った。
目を瞑ると、今日のバイトでの失敗と、紺野さんのことで頭がいっぱいになった。
そういえば今日、『もっとキビキビ動いて下さい』と『その表情ブスですよ』しか言われていない。悲しい。
なんでもいいからもっと話したかったな。
昨日のクロックムッシュ美味しかったな。
助けてもらってうれしかったな。
料理作ってる姿すごくかっこよかったな。
色んな紺野さんが頭に浮かんで離れない。
でも、諦めなきゃダメなんだ。
だって、紺野さんには、彼女がいるから。
「けほっ…」
一体どんな人なんだろう。
きっと、あんなに無表情な紺野さんを、笑顔にさせることができる素敵な人なんだろう。
紺野さんも、彼女さんを見るだけで胸が苦しくなったり、声を聞くだけで鼓動が速くなったり、切なくなったり、彼女さんががやること全てが愛しく感じたり、するのかな。
嫌だな。
なんかそれ、すごく嫌だな。
「けほ、けほけほ…っ」



