現在は20時。

お客さんはサラリーマンのおじさんや大学生で溢れかえっている。

あたしはというと、そんな忙しい中、何をやったらいいのか自分で判断できなくてかなりあたふたしていた。

オーダーを聞き返してしまったり、運ぶ順番間違えたり…。

お客さんたちの笑い声や、料理を作る音で、頭の中がパニック状態になってしまっていた。

光流君がさりげなく指示を出してくれたり、あゆ姉にフォローしてもらったり、その助けが無かったらあたしはただの邪魔者だっただろう。

なんだかとても情けなくて悲しい気持ちのままキッチンに料理を取りに行くと、エプロン姿の紺野さんとバチッと目があった。


「もっとキビキビ動いて下さい。これからもっと混みますから」

「は、はい!」


眉一つ動かさずに怒られた。

さすがロボット店員といわれるだけある。

すっかりびびってしまったあたしは、すぐさま料理を運んだ。


なんだよなんだよ紺野さんのバカ!

彼女いるくせに!

あと少しで本気で惚れちゃうところだったじゃないか!


と、訳のわからない逆切れをしながら、あたしはひたすら働いた。


でも、さっき光流くんに、紺野さんには彼女がいると聞かされた時、確かにあたしは泣かなかった。

好きな芸能人に熱愛報道があった時のような衝撃に近かった。

やっぱりこれは、恋じゃないのかな?

優しくされて、舞い上がっちゃっただけなのかな?

分からないよ。




22時。閉店。

あたしは店の掃除を済ませた後、2階の自分の部屋へと向かった。

あの大きなテーブルの上には、光流君が食い散らかしたゴミが残っていた。

あたしはそれを捨ててから、黒ポロを脱いだ。

みんな共有の休憩室となっているから、この1室はあたしの私物は全く置けない状況にある。

バイト仲間は、あゆ姉と光流君以外にも週一でちらほら入ってる学生さんも数名いるらしい。

だから、下着も布団も全てもう1室に押し込んだ。

いわば2分の1の部屋がゲストルームみたいなものだ。


「お風呂…はめんどいからシャワーでいっか」