そっと真冬の頭に手を置くと、真冬は機嫌の悪い犬のようにうなった。
こんなに怒っている真冬を見たことが無いし、こんなに誰かに心配されたことなんて初めてだったから、どうしたらいいか分からなかった。
「真冬、ありがとう」
「今度体調悪いのに黙ってるなんてことあったら、本気で怒りますからね」
「既に本気で怒ってるじゃないですか」
「はい?」
「すみません」
即座に謝ると、真冬はむっと頬をふくらませた。
走って赤くなった真冬の頬を指で撫でたら、触らないでくださいと言われた。本当に怒らせてしまったんだとそこで確信した。
「すみません…最近、色々と考え事が多くて。知恵熱かもしれません」
「え……?」
「真冬に、いつ言おうか、凄く迷っていたんですけど…」
俺は、思わず目を逸らした。
自分の目標を語ることって、こんなに勇気がいるものなんだ。知らなかった。
「2年後に、自分の店を出そうと思っています。店長にはもうその話はしてあります」
「え……」
「……簡単なことじゃないって、分かってます。まだ早過ぎるってことも、未熟過ぎるってことも」
「……」
「でも、もう俺には料理しかないって、そこの気持ちだけは凄く明確で、揺るがないし、真実です」
「紺君……」
まだ10代の俺が何を言ったって頼りなく感じるかもしれない。
けどこれは、叶えなくちゃいけない夢で、俺が目標にしてきたことだから。
無愛想な俺が、唯一人を笑顔にできる仕事だから。
これしかないって、思ったんだ。
本当に。



