「柊人もバームクーヘン好きなんだよ」
「えっ、そうなんですか!」
「……まあ」
「ああ見えてめちゃくちゃ甘いもの好きだからね。クールぶってあんまり言わないけど」
「そうなんですか! ぷぷ」
「真冬、喋ってないで仕事してください」
「はいすみません」
真冬を叱ったその時、階段を降りてくる二人分の足音が聞こえた。
休憩を終えたあゆ姉と光流だった。
「紺ちゃんまた真冬叱ってるの?」
「そんなんじゃいつか嫌われちゃいますよ」
嫌われるのは困る。
そう思ったけど、二人の言葉を完全に無視して作業を続けた。
光流のことも、そうだ。
光流は優しいから、きっと本当はずっと俺より大人だから、俺は今光流と普通に接することができるんだ。
俺が光流の立場で、真冬を誰かに譲るなんてことになったら、俺はどうしてたかな。
光流みたいに、相手と真っ直ぐ向き合えたかな。
『紺ちゃんのこと、信じてるよ』。
……光流は、凄い。
俺だったらそんなこと、言えない。
「……紺ちゃん? これ、4宅様に持って行っていいんだよね?」
「あ…ああ、はい」
「何ぼうっとしてんの、珍しいー」
「光流」
「ん?」
「ありがとう」
「はいい?」
光流は思い切り訝しげに眉を顰めて、きもちわるっと吐き捨てて4宅に向かった。