「…もしもし?」
突然のことに驚き出ると、店長は焦ったような声で俺の名を呼んだ。
「光流か? 真冬ちゃんバイトそのまま辞めるって連絡が来たんだけど、どういうことか分かる?」
「えっ?」
店長の声が隣の真冬にも聞こえていたらしく、真冬も同じように驚いた表情をしていた。
「店長、あたし真冬ですっ、辞めるなんて言ってません! 3月までは続けます! 明後日には戻る予定です!」
「真冬ちゃん!? でもさっき、真冬ちゃんの親族を名乗る方から電話が来て、辞めさせてくださいって、今後彼女が働くことで問題になることがあるのでって…」
「え…」
「真冬が抜けた分の求人で宣伝費がいるなら払いますので、って、それだけ言って…」
「そんな…問題って…?」
「いや、真冬ちゃんの意思が確認できたならいいんだ。ごめんね、突然。営業開始時間が迫ってるから、また連絡するね」
「はい、すみません、失礼します」
真冬は、明らかに動揺していた。
一体どういうことだ…?
なんで真冬を無理矢理辞めさせたがっている…?
「お兄ちゃんだ…」
疑問に思っていると、真冬が震えた声でそう言った。
お兄ちゃんだ。そう、何度もつぶやいた。
兄が…?
兄がなぜ、真冬を辞めさせようとしているんだ…?
真冬は、突然立ち上がり、1階へと降りていった。俺も後を追いかけた。
するとリビングに、丁度兄が――聡人が帰ってきていた。
「お兄ちゃん…勝手に電話したでしょ、食堂に」
「……ああ」
「なんで、そんなことするの…」
「………」
兄は真冬を見もせずに、シュッとコートを脱いだ。
真冬の肩は震えていた。



