あれからどれくらい時間が経っただろう。
気付いたら、もう24時間営業のお店しか明りがついていなかった。
歩く気になれなくて、たらたら歩いていたら、清水食堂に帰ってくるまで、30分もかかった。
もちろんもうお店は閉店していて、真っ暗だった。このDVDは、明日紺君に会ったら渡そう…。
そう思い、あたしは1階によることなく階段をのぼり、自分の部屋の鍵を開けようとした。
でも、手がかじかんで中々開けることができなかった。
ガチャガチャ。
…開かない。開けられない。はやく入りたい。
…どうしよう。はやく入って、布団にくるまって寝て忘れたいのに。
「……真冬、鍵貸して」
―――ふとそのとき、柔らかいシャンプーの香りが、鼻孔を擽った。
見ると、下にぽたぽたと水が落ちている。
真後ろには、突然隣の部屋から出てきた、お風呂上りの紺君がいる。
…一気に心拍数が、上がった。
どうして?
今まで、あたしのことを避けていたのに。
こうして仕事以外で話すの、何日ぶりだと思っているの?
なんで、あたしが帰ってきた途端、部屋から出てきたの?
髪を乾かしていた途中じゃないの?
ねぇ。どうして? 紺君。
「…開いた」
「…こんな遅くまで、何してたんですか?」
「え」
「明日仕込みの手伝いからなのに、大丈夫なんですか」
「大丈夫…です。朝、強いんで…」
ぽたぽたと、真っ黒な髪の毛先から、水滴が落ちる。
なんだか気まずくてコンクリにできた丸い染みを見つめた。
紺君と話すことが久しぶり過ぎて、話し方を忘れた。



