近くの公園に移動し、温かい飲み物を買ってベンチに座った。

頬をかすめる秋の風。由梨絵ちゃんの長い髪が、ふわっと舞い上がった。


「そういえば、真冬さんて紺君のことが好きなんですか?」

「ぶっ」

「大丈夫ですか?」


突然の質問に、あたしは思わず飲んでいたコーヒーを吹き出した。

ドキドキ、と心臓が嫌な感じに心拍数をあげていく。

かなり動揺してしまった。


「あ、えっと…」

「あ、深い意味でとらえないでくださいね? 単純にあの人無愛想だから嫌われてないかなー? って不安になったから聞いただけなんで」

「そ、そうだったの」

「それとも、深い意味があるんですか?」


……やられた、と思った。

由梨絵さんの眼光が、突然鋭くなった気がした。

…思わずぞっとした。


「なんてね、そんなわけないですよね」

「………」

「…柊人君、無愛想なのは昔からなんです。彼が養護施設育ちなのは、知ってますよね…?」

「え…」


突然知らされた事実に、あたしは一瞬言葉を失った。

そんなあたしを見ずに、由梨絵さんは話を続けた。


「柊人君が10歳の時に、うちが引き取ったんです。柊人君のお母さんが、わたしの親と古い親友で、紺君が孤児院にいるって大分後から知って、それで…」

「じゃあ、2人は兄妹みたいに育ったってこと…?」

「けど、血は全く繋がってないから。同居してる、ただそれだけです」


由梨絵さんの声が、急に低くなった。

きっと触れてはいけない所に、触れてしまったんだ。


「家でも、学校でも、平日も休日も祝日も、寝る時も起きる時も、毎日一緒でした。…柊人君が就職するまでは」

「…それは…寂しいね」

「寂しがった…すごく。すごく。失って気付いたんです、わたしの中でどれだけ柊人君が大きな存在だったかってこと」

「由梨絵ちゃん…」

「だからこんな風に付き合えるなんて、夢みたいだった…。わたしには、柊人君がすべてだったから。一度、彼がわたしのために泣いてくれたことがあるんです。それからずっと、彼はわたしの大切な人…」