24時間殆ど一緒に居れば。
面会やリハビリがなければ、暇な時間が殆どで…。


早速ブームとなったのは、トランプの…七並べ。


夏菜の相手をしていたノアが、無理矢理秀子さんを誘って…。

新入りだからって、問答無用で。俺も…、借り出された。


トランプなんて、小学生以来だったけれど。

これ程に白熱するものなのか?ってくらいに…盛り上がった。


ゲームの駆け引きは…、嫌いじゃない。


「要するに…、誰が一番腹黒いかっつーゲームだ。」


ノアが言う言葉には…一利ある。


渡ったカードで決まる…、運。
パスを巧妙に使った…、戦略。



案外、奥の深い…ゲームなのだ。




けれど、夏菜がイチ抜けした時は……

ノアは、

「夏菜は賢いなあー!」って、滅茶苦茶に誉めて。


最下位のだった俺に、罰ゲームと称してジュースを買いに行かせた。

「リハビリにいいだろ?」って、半ば強制的に…。




逆に、ノアが最下位になった時には…、車イスの奴に、アセロラジュースを買って来ように…意地悪してやったけどね。


夏菜はシャイで、寂しがりやで……。そんな彼女を放って置けなかったのだろう。

秀子さんやノアにとっては、彼女のはにかんだ笑顔は――…。唯一のオアシスだったのかもしれない。









俺とノアに限っては……


消灯なんて、関係ナシ。

真っ先に寝息を立てる夏菜と、イビキを奏でる秀子さんを…尻目に。



こっそり病室を抜け出して。談話室で、ノアの友達が持ち込んだ…ちょっとエロいグラビア雑誌を…覗き見るのは、ちょっとしたスリルだった。


まるで…、修学旅行のひとコマみたい。妙な…テンションで居られる自分がいた。




でも、時々…ふと思った。この雰囲気は――…。


アイツと居る時の自分に…よく似てるって。









たったの――…数日。


けれど、いくつ語らい合ったかは…分からないくらい。


ノアとの時間を重ねていったけれど。






その間にも――…


膝の痛みは、続いていた。



ソレは、就寝後の夜中にも――…訪れて。




「大成…、たいせー?」



ある日、身体を揺すられて…、俺は、ふと…、目を覚ました。


ここに来て、5日目のことだった。



「………。『モト』……?」



「大丈夫かよ…、お前、だいぶうなされてたぞ?」


俺の名前を呼んだのは、アイツでは――…なかった。



「………ノア…?」


「どっか―…痛むのか?」



「…………。」


車イスに乗った男に…

そんなことを心配させるだなんて。



「……。怖い夢…、見てた。」



体勢を変えて、引き出しを開けようと…するけれど。

膝が思うように…動かなかった。



「いーから、無理すんな。俺が取ってやる。」


ノアは俺の手を制して。引き出しの中から、薬の入った袋を…取り出した。



「『ロキソプロフェン』…?ロキソ……。……生理痛か!」


「……………。」


つくづく気が合うって…、恐ろしいもんだ。


お陰で…、一気に緊張の糸が…ほぐれた気がした。


「嘘だ、嘘っ。けどさー、そんなに痛むなら、薬変えて貰ったほうがいいんじゃねーの?術後の俺なんて、美人ナースにケツへと『ボルタレン』入れられたぜ?俺から頼んでやろっか?」

「………。やめとく。」



「あっそう…。まあいい、ホレ、早よ飲めや。」

俺がそうしようと動くよりも先に…、ノアは冷蔵庫からミネラルウォーターをとって、目の前に…差し出す。




俺が薬を飲み込むそのタイミングで。





「……お前はさー…、本当は、ここに居るようなヤツじゃないじゃん?」


突然、ぼそぼそっと……


語り始めた。


喉が…ごきゅっと音を立てて。


また、緊張の糸が…張り巡らされる。





「……お前くらいの有名人なら、怪我したっつったらソッコー報道されるだろ?なのにさー、ググっても、何処にもそんな記事載ってない。」


「…………。」


「俺ね、ウィンタースポーツもするし、お前んとこどっかで見たことあるって…思ったんだよね。」


「………。」


「キャップ被ってねーと幼く見えんな?」


「………うん。よく…言われる。」




「お前、一言も言わなかったよな…、どんな怪我しただとか、ここが痛い、だとか……。別に…、無理に聞きたい訳じゃねーよ?ただ…、なんでさー、ここで、そんな何かに餓えたような目エしてんのかなって…気にはなってた。ずっとだぞ?自覚あんのか、知らないけど――…。」