「『右脛骨骨肉腫』。」
「……それって…、ナニ?」
この日の夕食後――…
親父は珍しく、改まって。
医者が言っていた診断名をそのまま繰り返すようにして…俺に告げた。
リビングにゆっくりと…親子で向き合うのは。いつぶりの…コトだっただろう。
黙ってうつ向く母――…。
その、マグカップを握る手が。小刻みに…震えていた。
「怪我?いつんなったら治るの?」
「…………。」
「……ああ、何だ。もしかして、病気…?」
わざとおどけるようにして、軽く…そう返すと。
親父は、母親の方を見て。まるで、ナニかを決心したかのように…頷いた。
「……癌だよ。」
「……え。」
「………大成。お前のその足には…、癌が潜んでる。」
それは、ボトムに落ちていく感じに…よく似ていた。
体勢が崩れて。
コントロールを失って。
成す術もないままに…地に墜ちていく、その感じに。
中坊の俺にだって、『癌』という病魔の恐ろしさは…知っている。
幾度となく、ドラマやドキュメントで目にしてきた…病気。
「治るん…だよな。」
「……ああ。治療をすれば…。」
口でそう言っていても。目が…合うことはない。
母が、すかさず…口を挟む。
「助かるに決まってる!」
治る、じゃなくて…、どうして「助かる」なの?
「じゃあ、スノーボードだって…出来るんだよな。」
「………、……………。」
「なんで。何で何も…言わねーんだよ…。」
「今は…、色んな最先端の治療が受けられるから…」
声を絞り出すようにして、母さんが切り返したけれど――…
答えには、なっていなかった。


