独特の…消毒の匂い。


それは、海外でも国内でも…共通なのか。


新緑に溢れた…外観。

洋風のお洒落なそれとは違って、一歩足を踏み入れたと同時に…


何故…ここに来たのか。

その、理由が。



嫌でも…解ってしまう。




隠し通せると思っていた、痛みが。次第に…疼いてくる。




ここで、俺は――…まるで実験台であるかのように。

イロイロな検査を…されるがまま、しなくてはいけなかった。



寝台に寝かされて、身体がカプセルの中へと…吸い込まれる。酷く不快な雑音に、思考が妨げられたけれど、かえって…良かった。


襲ってくる不安の波を。感じなくても…済んだから。






翌日――…



訪れたのは…、同じ病院の、整形外科。



レントゲンの画像と、CT…、MRI、血液や骨の検査。それらの結果を……並べられて、


医者からの…


診断。



母が大粒の涙を流すのには、十分な理由があった。





「大成、少し…休憩しないか?」



泣いている母をよそに、親父は俺のアタマにポンと…手を置いて。穏やかに…微笑んだ。



「……うん。」


俺がここに留まることを…、両親共に望んでないことくらいは、察しがついた。


眼鏡の奥で、優しい瞳を向ける医師に…一瞥して。母の小さな後ろ姿に…、「大丈夫だって。」そう、告げて。

狭い狭い診察室を――…後にした。








「検査ばっかだし、時差ボケもあるし…。――…アタマがぼんやりする。……眠いのかな。」


「怪我人を連れ回して…悪いな。しかし…タフだよなあ、お前は。一度くらい弱音吐いたとこ、見てみたいもんだな。」




親父は困ったかのように…笑って。



「何か飲み物買って来ようか?」


待合室の…長椅子から立ち上がった。


「何がいい?」


「………。アセロラジュース。」


「………。自販機にあるのか、それ…。なんだってそーゆうめんどくさいもの注文するかな。」


「俺、目、悪いから。アセロラ効果で、今期は負けナシ。」


「……『目』だけに…、『願掛け』か。」


「…………?」




「ダジャレだ、ダジャレ。中坊にはちと難しかったナ~?」



「…………。」



親父の下らないジョークにダジャレは、いつものことで…。


「……相変わらずドライなヤツだ。」



手を叩いて笑うようなことは、これまでに…1度だってなかった。




「……売店売店…っと。」



会心のダジャレのつもりだったのか、無反応な俺に…ぶつくさ文句を言いながら。


親父は、歩き去って行った。




「………。……泣きそうな顔してるから…、気分転換に行かせてやったんだよ。……バカ親父。」




ただでさえタレ目なその目尻が、これでもかって言うくらいに…下がっていたことに。

気づいていただろうか――…?