「たいせー、お前、ボード新しくしたん?」


俺は、雪にまみれた大成の足元を…まじまじと見つめる。




「ん。アメリカ遠征用。調子よかったらそのまま公式戦で使おうかなって。」



お気に入りのスッテカーを好きなように散りばめた、ボード。


ビンディングの具合を調整しながら、今シーズン、長く世話になるなるだろうソレに。


つまらぬ嫉妬を抱く。


だって、俺がデザインしたら、こんな感じには…ならない。


センスの問題だ。



「『デイビット モデル』に次いで『Taisei モデル』とか売り出されそうだなあ。お前、これ以上活躍したら真似っこライダーでいっぱいになるぞ。」



まあ…、もうすでに現実味帯びて来ている。
羨ましいこった…。





「デカいスポンサーがつくと、いいものが手に入っていいよね。」



一方の…リョウこと、那倉涼は。


ブスッ面をして、ドライに言い放った。







「相変わらず、クールだなあ…。」



ヤツは小さい頃から、偉く大人びた女の子で。


カッコ良くて…当時は憧れていたものだけど…。



勿体ないことに。…愛想無さすぎる。





この二人の間に…俺がいなければ、ヘタしたら会話が無いんじゃないか、ってさえ思えるくらいだ。




「リョウ、先に滑って。」



大成の一言に。



「すぐ追い抜くからって…言いたいんでしょう?」




またしても…


可愛いげない返答。





リョウは、ストックで勢いをつけて。



斜面を…降り始めた。








「………。たいせー。」



「ん?」



「何で…今日ここに来た?」




「……さあ。」



「……。なんだ、ソレ。」




「変だよな、なんか。」



「………?」




「広く感じていた雪原も、長く思えたレールも、デカいジャンプ台も…。もう、全てが小さく見える。なのに、やっぱここだって…思うんだよなあ。」









大成はビンディングに足を固定すると……。




「よっしゃ!」



跳ねるように向きを変えて…


フェイキー(※)を決め込む。





いつもは前にしているハズの左足を、わざと後ろ側にして。









「……ヨユーあんじゃん。」



俺もヤツに倣って。



フェイキーのまま…



スタートを切った。







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(※)フェイキー=スイッチスタンス。(通常とは逆の足を前にして滑るスタイル)