「……はあ?」


姉貴は、顔をしかめて…、俺を見下ろす。


が――…、それも、一瞬。


にへら~っと表情を崩して、



「……久しぶりだね、たいせー。元気だった~?!」



陽気なまでの…笑顔を向ける。



「……………。……ぼちぼち。」



「辛気くさいねー、……くらっ!もうちょっと嬉しそうな顔したらどーよ?」



「……………。」




俺の周りには……、何でか、賑やかなヤツが多い。


この、ひとまわり年の違う姉貴を筆頭に……



家族や、友達も……。



モトやノアがいい例か。



一人だけ…、異質なのは。



涼くらいなものだ。


まあ、だから…、彼女が特別な存在だっていうことの…理由になるのかはわからないけど……。




「病院にも行けなかったからさ、たいせーが一週間の退院って聞いて、有休使って飛んで来たよ。思ったより…元気そうじゃん?」



「……まあね。」


彼女が一昨年前に、遠方に嫁に行って以来…
会うのはこれで…2回目だ。




「学校には?行って来たの?」


「…………?いや?」



「あ…、そうなんだー。いや、さっきここの近くでモトに会って…」


「………は?」


モトが?

この時期に、何でいるんだ。



「大成に言い忘れたからって、伝言預かったんだけど……。」


「……伝言?」


「うん。折角だし、あがればって言ったんだけどさー……。いいです、の一点張りで。」


「……………。」


「ワタシに会わなかったら、ずっとあの辺うろついてたかもねえ?」



「………。そーかもな。」


「………。ん?待てよ。アイツ、制服じゃなかったな。」





俺に対して…、

会わない、じゃなくて…


会えないって思ってくれているのか……。



いずれにしても、いつでも空回るのが…モトらしい。


わざわざここに足を運んだのが…今日だなんて、偶然にしちゃあ出来すぎだ。




「で?伝言って?」


早速本題に入ってみる。


「『里谷元成でググれ。』」



「………は?」


「『一番新しい日付けでアップされてる動画』だって。」


「…………?」


「じゃー、感動の再会は果たしましたので…、ご飯作るの手伝って来るから…ワタシはこれで。」


「……………。」






姉貴は、1度部屋の外へ出て。



それから……、もう一度、戸をそっと開くと――…



「今日はたいせーの好きな焼き肉だよん♪」と、そういって…


パタン…と、扉を閉めた。






感動の再会って言うよりは…、怒濤の再会っていう表現が正しいような気がするけれど。
姉貴が、遠慮が無さすぎる分だけ…そういったヤツには免疫がついている。



だからか……、自分が楽でいられるのかもしれない。


無口な性格でも、相手が喋り倒してくれるから…、ただ居るだけで、いい。

彼らには――…それが、許されたから……。







「……携帯……、いや、パソコンでいっか。」




入院してからというものも…、

インターネットを開いたことは…なかった。



ノアが…そうしたように。世の中は…情報化社会。


携帯1つで、人の人生を…垣間見ることだってできる。







自分の名前が目に触れるのが…怖かった。


世間の評価が…怖かったのだ。


自分が晒されている状況など…知りたくは、ない。



モトは…、それに気づいていたのかもしれない。



わざわざ伝言なんて頼まなくったって……


メール1つで済む問題なのに。