上下に揺れながら静かに堕ちて行く詩織は、最後にもう一度「ごめんなさい」と言った後、“愛して……”まで口にして正人の上に覆い被さるように息を引き取った。 もうそこに“妻”を殺害したと云う認識はなかった…… 怒りと失望と虚脱感に支配されていた吉行は、詩織の亡骸に目もくれず正人を殺す為にキッチンへ向かった。 通常の家にある“殺しに使える道具”を得る為である。 その部屋にはすでに、現実で通用する“道徳”等存在しなかった。