夏風の下に駆け寄った吉行は、夏風の側で何かを踏みつけた。 「……くっ…!」 夏風の横には割れた注射器が転がっている。 「夏風が泣くから気持ち良くさせてあげようと思っただけなの……、本当なの……。私と同じ様に気持ち良く……」 夏風の細い腕には針の跡が…… そして口からは息はしていなかった。 目には涙の跡がうっすらと乾いていた。 吉行の目に映った夏風は、今までに見たどの顔よりも穏やかであった。 吉行の耳には、幻聴のように「ごめんなさい」と言う言葉が繰り返されて聞こえていた。