1分間をこんなに長く感じたことはない。
10分程度と聞いていた施術の終了時刻が迫ってくるにつれ、どんどん高鳴っていく鼓動の音と戦った。
ガチャと、数センチ先にある戸が開いた。
「頑張って」
後ろから小さく聞こえた母の声に、覚悟を決めて頷いた。
だけど、実際に中から出てきたのは、待ちわびた彼ではなく、体の大きなスーツ姿の中年の女性だった。
女性は、自分の身体で戸の前に壁をつくるようにして立ち、恐ろしい形相でこちらを見下ろした。
そして小さく首を後ろに振って、「待って」と、多分中にいる彼に向かって告げた。

