「カナタのことは、あまり人に言うなよ」


師匠に念を押されたが、俺がこの情報を伝えたい相手がただ1人いる。



卒業式の後に窓から外を眺める新垣の後ろ姿を見つけて、声をかけた。


そして、居場所を知らせた。


俺の新垣に対する気持ちはいつの間にか思い出になっていたことが、この時ハッキリと分かったんだ。


だから顔を上げて、真っ直ぐに目を見て言える。


「また、会えると良いな。ミニチュアダックスフンドに」


急なことについていけないと言いたそうな顔をしていたから、前もって封筒の中身を説明した。


目を見張って自分の手元にある印刷物と、俺の顔を交互に見た。


整体のことを一通り伝え終わったあと、俺は時計の針に目をやって急いで行かなければいけないことを思い出し、慌てだす。


窓から入り込む日差しと風が優しくて、ついゆっくりとしてしまった。


「俺、森川のこと待たせてるから行くわ」


これまで、俺の曲がった表現を受け止めてくれて、ありがとうな。


「いってらっしゃい」


その声に見送られながら、感謝の気持ちで満たされた。


誰かが誰かを大切に想った気持ちは、未来へと繋がっていくものなのかもしれない。


例えそれが交わらない思いであったとしても。


だから新垣も頑張れって、心の中で強く思った。


君は、俺の初恋だった。



中田Side fin.