小さな声が腕の中から聞こえてくる。


「ごめんね。ありがと」


胸から離れ見上げてきた顔の頬は赤く染まり、目は潤んでいるように見えた。

心臓がドキリと音を立てた。

それに気づかぬ平然としたふりをして俺は口を開く。


「大丈夫か?」

「うん」

「怪我してねえか?」

「うん」

「良かった。...人凄いな」

「そうだね。気をつけなきゃね」


そっと俺から離れて、目を伏せて微笑する。


ありがとうと、つぶやく声がもう一度聞こえた。


「行こっか」


そう言って進み始める歩幅に合わせるようにして俺も歩き出した。