良かった。とりあえず、一番避けたかった事態は逃れられた。


気持ちを告げることによって、新垣との関係性を悪い方向にだけはしたくなかった。


今までの関係が良いとは言えないかもしれないが、それは俺の精一杯の愛情表現ってことで、大目に見てもらいたい。



「来てくれて、ありがとな」



振られたのに、心は感謝で満たされていた。だから伝えた。


そうは言っても、寂しいような、悲しいような気がするのも事実だ。


新垣は小さく首を横に振って「こちらこそ、ありがとう」と言った。


今から、ここから前進していくぞ。


グラウンドでは、野球部の後輩が待っている。


「よし、俺、野球部行くわ」


空気を切り替えるように、明るい声で言うと、やっと新垣が微笑した。


新垣に背中を向け小走りしたら、後ろから聞こえる。


「ありがとう!!」


この耳にずっと残しておきたい優しい音の響きを受け取った。


でも、止まってはいられない。


新垣に届けたい今の気持ちを手に込めた。


空に掲げたグーサインをピースサインに変えた。


青空が頭上で笑っているように見えた。


中田Side fin.