母の車に乗って、連れられてきた家。



「ねえ、お母さん。ここ、どこ?」


「唯に話してなかったけど、ここ、新居よ。」


「新居?」



前の家と少し離れたところにある家。

中古だろうか。

庭付きの一戸建てだ。



「お母さん、」


「いらっしゃい、唯。」



背中を押されて玄関から入る。

一人で暮らすには、広すぎるんじゃないだろうか。



「ただいま!准一さん!」



―――准一さん?



「おかえり!」



そう言って出てきたのは……。



「ま、マエゾノさん!!!???」



あまりの驚きに、それ以上何も言えなくて。

ただ、あんぐりと口を開けて彼を見上げた。



「久しぶり。唯ちゃん。」



困ったような顔で、マエゾノさんは頭をかく。



「な、どうして!!」


「ごめんね、唯ちゃん。」



マエゾノさんは、どう説明したらいいか分からない、といった表情をしていた。



「ほら、そんなところに立ってないで、中で話そう!」



母に押されて、慌てて靴を脱ぐ。

頭の中は、混乱して真っ白だった。

私の前から、確かに去ったはずのマエゾノさん。

もう二度と会えないと思ったマエゾノさん。

母を、ここまで変えてくれた人。


その人が、また「おかえり」と言って迎えてくれることが、信じられなくて―――