いてて、とつぶやきながら立ち上がると、私は台所に立った。

しゃけを焼いて、お味噌汁を作って、ほうれん草のおひたしに、……。



「いい匂いだね。」


「もうちょっとです。」



久しぶりだ。

晴れやかな気分で料理ができるなんて。

最近は、まともにご飯も作れなかった。


おいしそうに焼けたしゃけを見下ろして、私は鼻歌を歌い出しそうになる。




「できました!」



シンプルな料理をテーブルに並べて、先生と共に手を合わせる。



「いただきます。」



先生は、しゃけを口に運んでにっこりと笑う。



「おいしい。私はしゃけが好きなんだよ。」


「知ってます。」



くふ、と笑う。



「思い出してしまいますね。初めて唯にメールを送った日のこと。」


「あ。」



おんなじこと、考えてたんだ、先生。



「あの日は、正真正銘の初メールで。失敗しないように色々考えてたら、返信が遅くなってしまって。」


「ずっと、ずっと待ってたんですからね。それなのに、しゃけ、って。」


「あ、根に持ってる?」


「そんなことないですけど!」



耐え切れずに笑いだすと、先生も嬉しそうに笑う。



「嫌なことがあっても、すぐに立て直すのは唯のいいところだね。」


「だって、私は……、陽さんがいれば、何も要らないから。」



先生は、にっこりと笑った。



「メールといい、その言葉といい、唯は私を誘っているとしか思えないね。」


「陽さん、」


「先にお風呂入っていいよ。ベッドで待っていて。」


「ちょ、陽さんったら!」



先生は、意地悪な笑みを浮かべる。

あ、久しぶりに見た、この表情。



「何を焦っているの?消毒し直してあげるんだよ?」


「あ……。」



赤面している私に、先生はくすり、と笑う。



「キスしたいけど、それも後にしよう。今は、せっかく唯が作ってくれたおいしいごはんを味わいたいし。」



先生に、こんなふうに甘く振り回されるのが、とても、とても幸せ。

その嬉しそうな顔を見ていたら、お腹がいっぱいになってしまう。

先生と食べるしゃけは、やっぱり幸せの味がした。