やっと部屋にたどりついて、先生は私をソファーの上に下した。



「手当してあげよう。」



そう言って、先生は薬箱を持ってくる。

薬箱――――?



「あっ、陽さん、自分でやるから、」


「これは何?」



先生の声が一気に低くなった。

私は、それだけでもう何も言えなくなる。



真っ赤な字で書かれた宛名。

そして、その中の一枚を先生が取り出す。





『1週間以内にその部屋を出ること。さもないと殺す。』





「何ですか、これは。」



先生の口調になって、私を問い詰める先生。

だけど、私は何も言えなくて。



「どうして黙ってたの。」



「ごめん、なさい……。」



「どうして、唯。」



「陽さんが……」



涙があふれてきて、言葉にならない。

この一週間、一人で苦しんできたこと。

でも、結局こうしてばれてしまったら、意味がなくて。



「陽さんが、傷付くのが……嫌でっ、」



後から後から涙が溢れる。


先生がこれ以上傷付くのは、嫌だったから。

ただでさえ、大きな決断をしてくれた先生。

きっと、そのことで一番傷付いたのは、先生だと思う。

だから―――



「どうして唯が、私の過去を背負わなければならない?」



さっきよりも優しい声で、先生が言った。



「どうして唯が、こんなに痛い思いをしなければならない?どうして、」



先生が、ぎゅっと私を抱きしめる。

さっき打ったところが、痛かった。



「どうして、唯が苦しまなければならない?私のせいで。」



先生が、苦しそうに言う。

どうして、と何度も繰り返す。

その声を聞いていると、私も切なくなって涙が止まらない。



「唯を失ったら、私はどうやって生きて行ったらいいのですか?」



その一言に、心が震えた。

自分のしていたことが、今になってとても恐ろしいことだと思えた。

自分だけで背負って、先生をかばったつもりになっていた、自分の愚かさにも気付いて。



「ごめんなさい。」


「唯が大事なんだ。私は、私自身よりもあなたのことが、大事なんだよ。」



先生は、私をかばうように抱きしめた。