ピンポーン―――



「私だよ!」



先生の声に心からほっとして、ドアを開ける。



「陽さんっ!」



両手に買い物袋をぶら下げた先生の首に、私は思い切り抱きついた。



「どうした、唯。ちょっと待て。これを置いてからだ。」



先生は笑いながら玄関に荷物を置いた。

そして、靴も脱がずに私を抱きしめた。



「陽さあん。」


「今日は甘えん坊の唯だね。」



いつだって、心がふらふらと揺れる私にも、先生は優しくしてくれる。

それが、申し訳ない。

いつも、堂々と立っていたいのに。

変わらぬ自分でいたいのに。



「どうしたの、急に買い物してこいだなんて。」


「何でもないです。」


「いずれにせよ、こんなことろで君を抱けないな。」



ストレートに言う先生に、思わず赤面する。

離れると、先生は私の背中をぽん、とたたいた。



「いたっ、」


「そんなに痛かった?すまない、唯。」



思いがけない反応だったのだろう。

先生は、私の顔を心配そうに覗き込む。


今日、玄関で転んで段差に背中を打ちつけたから。

きっと痣になってるんだろうな。

先生にばれないといいけれど。



「唯が甘えてくる日は珍しいから、今日は唯からいただこうか。」


「もうっ、陽さんったら。」



いつもより大胆なことを言う先生。



「あれ?」



先生の視線が電話に向かっていて、私はぎょっとした。

確かに、毛布が被せてある光景はなかなか異様に見えるだろう。



「あっ、片付けるの忘れてて。」



苦し紛れの言い訳をしながら毛布を取る。

先生は、そう、と言いながら首を傾げた。


とても勘のいい先生なら、すぐに見抜かれてしまいそうで。

本当はは怖くて仕方がなかった―――