足首にくっきりと付いた痕を見て、私は遅れて恐怖が背中を這い上がってくるのを感じた。

ここにいてはいけない、そう思って動こうとするのに、金縛りのように動けない。

腰が抜けてしまったらしい。



―――怖い。先生。



昨日の夜とは比べ物にならないほどの恐怖を感じた。

このままだと私、気がおかしくなってしまいそう。


ふと見ると、転んだ時に投げ出した手紙がそばに落ちていた。

赤い文字で宛名が書いてある。



『笹森唯様』



ああ、名前も知られているんだ。

絶望的な気分でその手紙を眺める。


読まない方がいいと思うのに、手が勝手に便箋を取り出していた。



『1週間以内にその部屋を出ること。さもないと殺す。』



じりじりと玄関の扉から離れるように、後ずさった。

殺す―――

その言葉が嘘ではないと、証明するかのような足首の真っ赤な手形。


どうしよう、どうしよう。


先生との穏やかな日々が、やっと始まったと思ったのに。

やっぱり、私の予感は正しかったんだ。

私と先生は、一緒にいられない。

一緒にいると、きっとお互いに不幸になってしまう。



「先生―――――」



何とかベッドまでたどり着いて、先生の使っているまくらをぎゅっと抱きしめた。

先生の匂いがする。


先生と一緒にいたい。

隣にいたい。

高校時代から、何度思ったことだろう。


それをやっと今、叶えたというのに。



逃げたくない―――



そう思った。

今、私がここから逃げ出したら、もう終わりになってしまう。



先生、先生のためなら。

先生の近くにいられるなら。

私、死んだっていいよ―――



先生の匂いのするまくらをもう一度ぎゅっと抱きしめて、私は立ち上がった。