レストランを出ると、辺りはもう真っ暗だった。

春のふわっとした風が、私たちを包む。



「唯、ほら見て。」



先生に促されて見上げた先には、満天の星空があった。



「見せたかったんだ。ずっと。」


「わあ、綺麗。」



思わず、両手で口を覆ってため息をつく。

感動を超えた景色が、そこにはあった。



「陽さん。」


「ん?」


「雨の日じゃなくても、ずっと、陽さんの隣にいたい。」


「うん。」


「そうすれば、」



後ろから先生の腕に包み込まれながら、私は空を見上げた。

なぜかまた、目の端からすっと涙がこぼれる。



「そうすれば、陽さんは、こんなに素敵な空を見せてくれるんでしょう?」



先生は、ぎゅっと私を抱きしめる。



「ああ。約束する。」


「それから、」



前に回された先生の手に触れる。



「私が隣にいれば、陽さんも、」


「ん?」


「少しは幸せって、思ってくれる?」



先生の手が、私の手をぎゅっと握った。

心配しなくていいと、そう言っているように。



「当たり前じゃないですか。」



振り向くと、天野先生の顔をした先生がいた。



「何度言ったら分かるんでしょうね、笹森さんは。」


「陽、さん?」



すると、急に、引き寄せられて。

先生は、私に深い深いキスをする。



「よう、さ、んっ、」


「まだ分かりませんか?」



繰り返し繰り返しキスされて、息が苦しくなる。

その甘さに、指先まで溶けてしまいそうで。


先生の服の背中の部分を、ぎゅっと掴むと、やっと離してくれた。



「分かった?」



先生に顔を覗き込まれて、真っ赤になる。

頷くと、先生がふわっと私の頭を撫でた。



「いじめてごめん。」



いたずらっぽく言う先生。


分かったよ、先生。

疑ってごめん、先生。


こんなに大事にしてくれるあなたのこと。

不安に思ったりしたら罰が当たるね。



「先生、」


「何ですか、笹森さん。」



顔を見合わせて、ふふっと笑い合う。


天野先生の顔と陽さんの顔。

笹森さんの顔と唯の顔。


私たちにはいつも、ふたつの顔があって。


そのどっちだって、愛していて。



「あれ、今日のプラネタリウムで見た、北斗七星ですね。」


「どれ?」


「あれです。」


「あ、ほんとだ。ってことは、こっちが北東の空か。」


「春一番を告げる星座だそうですね。」



あ、先生みたいだ。

『春へのカウントダウンの日』に生まれた先生みたい。


そう思ったら、その7つの星の並びが、愛おしくてたまらなくなった。



「お誕生日、おめでとうございます。」


「ありがとう。」



そう言って、先生は笑った。

本当に嬉しそうに笑ったんだ。



「最高のプレゼントみたいな一日だったよ。」



そう言って、私を胸に抱きながら―――




「お客さん、忘れ物ですよ。」



急に声を掛けられて、飛び上がりそうなほど驚く。

振り返ると、朔太郎さんがいた。

胸に抱いているのは、シロ―――



「「あ、」」



先生と同時に声を上げて。

困り果てた顔の朔太郎さんには、悪いけれど。

二人で、涙が出るほど思いっきり笑い合ったんだ。