朔太郎さんが階段を降りて行った後。

先生はふと姿勢を正した。



「唯。」


「はい?」



真っ直ぐ見つめられると居心地が悪くて、私も姿勢を正す。



「朔に言われたからじゃない。今日、絶対言おうと思ってたんだけど。」


「はい。」


「私と正式にお付き合いをしてください。」



言われて、思わず泣きそうになった。

ここに来るまで、本当にいろんなことがあって。

諦めかけたこともたくさんあったけれど。


我慢してよかったよ、先生。

待っててよかった。



先生の心が安らかになるには、もう少し時間がかかりそうだけど。

それまでの時間、それからの時間を、先生の隣で過ごしていたい。

先生の為に、私も頑張りたい。



「よろしくお願いします。」



小さく頭を下げると、テーブル越しに先生の手が伸びてきて、私の手を取った。



「ありがとう。」



私、今世界中で、一番幸せだよ、先生。

ありがとうは、こっちだよ。



「お取込み中すみません。」



両手に料理を乗せた朔太郎さんがやってきて。

そのすねに、盛大に蹴りを入れる先生。

見ていて笑いが止まらなくなる二人だと思った。



これからもずっと、ずっと。


先生と一緒に、人生を歩んでいけたら。


きっと楽しくて仕方がなくて、笑顔が絶えない人生になるだろう。


万が一、そんなことがあったら―――




笑って笑って、二人の姿が涙に滲むとき。

幸せって、こういうことなんだと心の底から思った。