初めて先生のために作った朝食を、先生は嬉しそうに食べてくれた。
おいしい、って何度も言いながら。



「今日は、どこかに出掛けましょうか。言われてみれば、唯とちゃんとしたデートをしたことはないからね。」


「え?そうですか?出掛けたじゃないですか、……雨の日に。」



そう言うと、先生は少し苦い顔をした。



「唯を泣かせてばかりのデートなんて、デートとは言えないよ。それに、雨の日だし。」


「私は幸せでしたよ。雨が降るのを祈って、てるてる坊主を逆さまに吊ったりしましたからね。」


「そんなこと言われたら、尚更申し訳ない。」



悲しそうな顔の先生。

そっか。

レストランに行った日。

先生は泣いていたね。

傘を放り投げて、奪うように私を抱きしめたあの日、先生は何を思っていたのかな。

星が綺麗な丘の上で、私に星空を見せてあげることさえできないと、そう言いながら―――



「あの日のこと、忘れないで、唯。」


「え?」


「忘れないでほしい。卑怯な私のことを、忘れてはいけませんよ。許しては、いけませんよ。」



厳しい顔でそんなことを言う先生。

そんな先生が、大好きでたまらない。



「許さないですよ。」


「え?」


「一生許しません。もう、片時もあなたのそばを、離れません。」



そう言うと、先生は笑った。

晴れ晴れとした笑顔で、また私をときめかせて。



「どこか、行きたいところはある?」


「あのレストラン、また行きたいです。朔太郎さんに会いたい。」


「朔に?分かった、じゃあレストランに行こう。報告も兼ねて。」



にこっと笑う先生。

そう、朔太郎さんには、随分お世話になったから。

先生の過去を、ほんの少し教えてくれたのは朔太郎さん。

先生が病気じゃないって教えてくれたのも。



「あ、そう言えば陽さんって、高校生のとき三カ年皆勤だったんですよね。」


「え?何で知ってる?」


「朔太郎さんが言ってました。」


「朔が?よく覚えてるな、あいつ。」



嬉しそうな先生。

朔太郎さんのことを話すとき、少し乱暴になる口調が、二人の仲の良さを表している気がする。

そんな関係が、少し羨ましかったりする。



「唯は、サボり魔だからね。」


「否定しません。」



確かに、私はサボり魔だった。

担任とそりが合わなくて、いつも図書館で本を読んでいた。

だから先生に会えた。

それは、神様に感謝したいくらいだけど。



「さ、じゃあ支度しようか。他にも寄って、夕方になったらあのレストランに行こう。」


「はい!」



先生とのお出かけが、あまりにも楽しみで。

私は跳ねるように部屋を移動して。

そんな私を見ながら、先生は目を細めて笑っていた。



「ノラ猫の笹森さんは、やっと飼いネコに近くなりましたね。」



先生の口調で言われると、私は頬を赤らめた。