[新訳]Snow Drop Trigger

少し甲高い音で構成される、スローテンポの曲。

まるで雪が降るような錯覚をさせるような曲調に合わせ、巨大なディスプレイに映し出されるアナウンサーが本日の天気を告げる。


『本日は夕方からさらに冷え込みが厳しくなり、今年初の積雪を観測する地方もあるでしょう』


冷え込みがさらに厳しくなるなんて、もっと厚着してくれば良かった。

街中に鳴り響くクリスマスソングがやけに耳に残る。

15年前もきっとこんな感じだったのだろうか。

クリスマスの雰囲気で賑わう冬。

……しかし、15年前の出来事なんて正確に覚えている訳がない。

クリスマスソングや街中のイルミネーションにも特に興味は持てなかった。

むしろ、良くやるなと感心する他なかった。

街はすっかりクリスマスモードで、柔らかな光が点灯するイルミネーションや、サンタさんの飾り等が所々に配置されていた。

この街は複合商業施設が近いから商戦的にはクリスマスモードにした方が利益があるんだろうと、我ながら夢の無い事ばかり考えるようになった今日この頃。

そんな俺は只今、目の先に見える複合商業施設へと向かう為に街中のとある一角を歩いていた。

冷たい風が全身を掠める度に縮こまる身体を懸命に動かしながら、巻いているマフラーに顔を埋めた。

寒いのは、苦手だ。


「まさや」


この時期になると、街中を歩く人々にカップルが多い。

クリスマスという一つのイベントが、人肌恋しい季節だと実感する丁度良い機会なのだろう。

周りでも『彼氏、彼女が欲しい』とぼんやり呟く友人が多い。


「まさや」


早く複合商業施設へ着かないだろうか。

着いたら真っ先に店内に入って、この寒さから逃げよう。

店内に入って数秒で身体を包み込む、いや掴んで離さないぐらいの心地良い暖房に早く煽られたい。


「正恭‼」

「…………何?」


いきなりの大声に右耳の鼓膜が生存危機を迎えそうになる。

しかしそんな事は御構い無しに、その声の主は不機嫌そうな表情を崩さずに俺を見ていた。

その場で立ち止まってしまったが、寒いから早く店内に入りたい。

だが、どうやらそうもいかないようだ。

声の主は不機嫌全開で俺を睨むと、小さいが分かりやすい溜息をついた。

溜息をついた瞬間に彼女のマフラーが片方落ちたので、俺は彼女に一歩近付きそれを手に取った。


「正恭、狙ってやってるの?」


狙ってる?

俺と頭一個分程の身長差のある彼女の黒い髪を手で撫でる様に整え、そしてマフラーを巻き直す。

ソワソワとしている彼女に疑問を覚えるが、俺はゆっくりと歩き出す。

ぼんやりしていたのか、俺がいきなり歩き出す事を予想して無かったのか、彼女が慌てて駆け足で俺の横へ戻ってきた。


「狙ってるって、何が?」


息を少し切らしながら歩く彼女に、先程の疑問をぶつけてみた。

すると彼女は今度は俺を睨み、またもや溜息をついた。

今度は盛大に。


「あのねぇ、正恭。
そーゆーの誰にでもやるから、変に好感を持たれるんだよ?」

「性悪男みたいだな、俺」


そんなつもりは全く無いのだが、何だこの酷い言われ様。

俺は、苦笑を浮かべながら息を吐いた。