酷く冷たい風圧が、自身の頬を撫でる。

ちらちらと白く儚い雪の結晶が、不穏な色の空から街中へと容赦なく降り注ぐ。

あんなにも活発だった街は、今やただの瓦礫や廃墟と化していた。

辺り一面に無造作に転がっているのは、過去に人間だったモノ。

今では生命活動すら停止し、奇妙な静寂をより引き立てる存在でしかない。


自身の頭部から垂れる褐色の液体が、生温く感じる。

辺りも同様に鉄の錆びたような匂いは充満しているのだが、自身から流れる血液の匂いがやけに鼻についた。

錆びた匂いが充満している廃墟なんて、御世辞でも気分が良いとは言えない状況だ。

無数の遺体が地面に散らばっている、廃墟ビルの一室。

もう何年も使用されていないような錯覚さえ感じてしまう程に、全ては劣化していた。


……まだ、『あの日』からそんなに経っていない。


俺は、散らばる遺体の右腕部分に、片足を乗せる。

酷な事をしていると我ながら思う。

しかし、そうしないと前へ進めないならそうする他無いだろう。


俺が探しているのは此処ではない、とある廃墟ビルの屋上に佇む影。

この場から割れている窓をの方を見た。

廃墟や荒地が広がる街だが、その中でも特に不気味な雰囲気を醸し出しているビルを見つけ、俺は目を細めた。

そこには、未だ復讐を諦めていない青年が、薄ら笑いを浮かべて立っている。

そしてその横で、俺に何もかもが瓜二つの人物が虚ろな瞳でこちらを見ている。


……パキッ。


踏み込む足にほんの少し力をかける。

遺体の腕は小さな音を立てて、足元で呆気なく砕けた。

砕けた場所から微粒子になった遺体は、廃墟を真上から包み込む不穏な空へと消えていく。




今でも、考えてしまう。

あれは『始まりの終わり』だったのか。

『終わりの始まり』だったのか。


もしかしたら初めから『終わり』だったかもしれない。

いや、『始まり』だったのかもしれない。



心を落ち着かせる為に、ゆっくりと深呼吸をした。

目的の廃墟の屋上に佇み、嘲笑を浮かべる青年。

そしてその横で無表情な少年の居る廃墟へ向かって歩き出す。

微かに俺の持っている刃から、雪の結晶が散った。


「俺はお前であり、お前は俺なんだ」



だから俺はお前を助ける為に、この力を使う。

全てを報復なんかの為に壊すことなんて、誰にも許されないのだから。



「この世界に希望を。
そして報復をも越える、奇跡を」