その日の夜。
随分早く部屋にこもってしまった梓の部屋のドアをノックする。
「……梓。俺だけど」
兄弟の中で"梓"と呼ぶのは俺だけ。
だって俺が生まれるまでまだ、両親にとって梓は姉じゃなかったから。
まだ家にいた両親が呼んでいる"梓"というのを記憶しているのは俺だけだろう。
前聞いたら、拓土も拓海も両親が梓を呼ぶのは"姉ちゃん"しか聞いたことないと言っていた。
「……森哉? どうしたの」
だから俺だってわかったんだろう。
くぐもった声が返ってきた。
「開けるよ」
そう言うだけ言って、返事が来る前にドアを開ける。