パパ、ママ! ココナッツ……ココちゃん、おいで。


 いくら呼びかけても、誰もこちらを見ない。


 まるで、最初からわたしなんて存在していないかのように……。


 泣いても叫んでも、怒っても反応がなかった。



 ……みんな、わたしのこと忘れちゃったの?



 足元の地面が崩れて、奈落の底に真っ逆さまに吸い込まれていく。



「う……くっ」


 胸が痛くなるような悪夢から目が覚めると、
わたしは無意識のうちに嗚咽を漏らしていた。


 家に帰りたい。


 家族に会いたい……。


 子供のように声を上げて泣きじゃくりたくなった。


 でも、そうすると犯人の神経を逆撫でしてしまう可能性がある。


 わたしは濡れた頬を拭うと、大きくため息をついた。


 抱えた膝の上に頭を乗せて、ぼんやりと視線を宙に投げる。



 時間だけが無意味に過ぎていく。


 何もやることのないわたしは、部屋──檻の中をうろうろ歩き回ったり、料理中のママみたいに鼻歌を口ずさんだりした。
 

 今が昼なのか夜なのか分からない。


 遊園地に行った日から、確実に丸一日は過ぎているだろう。


 月曜日の夜──あるいは、火曜日の朝。


 そう判断を下した瞬間、強い尿意を催した。


 さすがに一日以上トイレに行かないわけにはいかず、わたしは監視カメラを気にしながら用を足した。


 幸いなことにトイレットペーパーが用意してあり、レバーを回すと水も流れた。


 監禁されているのに待遇は悪くない。


 それが不可解だし、何か裏があるのではないかと不安を感じてしまう。