目が覚めたとき、わたしは白い病室のベッドに寝かされていた。


 最初に視界に入ったのは、心配そうな顔をしたママの姿だった。



「萌っ! 良かった……。あなたが無事で本当に良かったわ」


 ママはハンカチで泣き腫らした目を押さえながら、わたしを抱きしめてくれた。


 パパと弟も駆けつけて、涙の再会となった。


 しかし、声が出ないわたしは“心因性失声症”と診断された。


 ショックや強いストレスが原因で、しばらく治療が必要とのことだった。



『裕太は?』


 そう紙に書いて聞くと、ママから思わぬことを聞かされた。



「裕太くんはね、集中治療室にいるわ。体内に残った毒を取り除いて、指の縫合手術をしなきゃいけないから……」


 医者によると、歩ける体力が残っていたのが不思議なくらいだと言う。


 そんな状態だったにも関わらず、わたしを背負ってくれていたのだ。


 裕太への想いがますます強くなる。


 二人の刑事が事情を聞きに来たが、パパが「娘はまだ話せる状態ではない」と強い口調で追い返した。


 謎が多く残る誘拐事件として、テレビや新聞で連日取り上げられた。


 しかし、地下世界については一切触れられておらず、そのことを知る人物はいないようだった。


 あるいは、知らぬふりをしているのか……。



 イシザキのことが気がかりだけど、彼ならきっと大丈夫だと信じている。


 わたしの救世主だもん……絶対に、今もどこかで生きてるはず。



「萌! 裕太くんの縫合手術が成功して、今病室に移されたそうよ」


 ママの言葉を聞いた瞬間、わたしは思わず飛び上がって喜んだ。


 声はまだ出ないけど、きっと大丈夫。


 裕太が一緒なら、乗り越えられる──。



 わたしは面会の許しが出て、裕太の病室に遊びに行くことにした。


 喜びと緊張で胸が詰まり、今にも涙が出そうになる。


 だけど声が出ない分、裕太に心配かけないように笑顔で会いに行こうと心に決めた。