真実……一体何だと言うのか。
まさか、イシザキの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
わたしは緊張して、無意識に両手を握りしめていた。
「お喋りな老いぼれから、俺の生い立ちは聞いてるだろうな。あれは本当だ。ろくなもんじゃなかったが」
イシザキは片手で器用に煙草をくわえると、ライターで火を点けた。
ゆっくり吸い込んで、煙を吐き出す。
「まぁ、俺のことはどうでもいい。問題は、お前たちが生きてここから出られるかだ」
どことなく含みのある言い方で、わたしたちを交互に見やる。
ヒカルから聞いていたのか、脱出計画を口にされてドキリとしてしまう。
阻止するよね……絶対。
不安げな表情をしていたのだろう、イシザキがわたしの心を見透かしたように口を開いた。
「まだ分からないのか? 俺が何のためにここにいるか」
「え、えっと……」
わたしは少し戸惑いながら、頭を働かせた。
今まで気づかなかったけど、もしかしたらイシザキは味方……なのだろうか。
「勘違いするな。お前たちを助けるほどのお人好しではない」
ハッキリ言われ、途端に気持ちがしぼむ。
裕太は腕を組んだまま、じっとイシザキを見つめている。
「お願いです、イシザキさん。わたしたち……本当にここから出たいんです! どうか助けて」
両手を合わせて懇願するわたしを思案顔で見ていたが、やがてイシザキは軽く息を吐いた。
よく見ると、肩から血が出ている。
やはり撃たれたのか……。
満身創痍と言った具合のイシザキに、わたしは感心すらしてしまう。
「源ヒカルがくたばった時点で、お前らの運は尽きた。諦めるんだな」
「そんな……」
ショックのあまり声を詰まらせると、イシザキは冷笑を浮かべた。
「刺し違える覚悟があるなら、助けてやってもいいぜ。建物の中にいる人間は、全員敵だ」
「拳銃を貸してくれないか」
黙っていた裕太がおもむろに口を開き、手を差し出した。
イシザキはそれには応じず、裕太の右手に目を落とした。
「……腕利きの医者を知っている。生きて出られれば、お前の指は元通りになるだろう」
「さっきからひどく痛むんだ……。早く、地上に戻りたい」
裕太が自分の右手をかばうように手を添えて、小刻みに肩を震わせる。
指を切断されて平気でいられる人間などいない。
わたしはいつ彼が泣き叫び、のたうち回るのかと思うと怖くなった。
イシザキの言う腕利きの医者にかからせてあげたい。
「俺はずっと老いぼれを殺す機会をうかがってきた。奴の変態趣味を探るうち、ここに辿り着いた……。ヘドが出るほど腐った地下世界にな」
イシザキが苛立った様子で、落とした煙草を踏みつける。
あぁ、そう言うことか……。
わたしはようやく合点がいった。