《紗英子side》 「――たさん、緒方さん!」 「え、は、はいっ!」 何度も名前を呼ばれたあと、肩を叩かれて自分が呼ばれていたことに気づいたあたし。 「どうしたの?なにか困った事でもあったの?」 仕事の休憩時間。 心配そうにあたしの顔を覗き込むのは、同じカフェで働く、5歳年上でフロアチーフの河内(かわち)さん。 「あ、なんでもないんです。すみません……」 おぼんを抱きしめて、慌てて軽く頭を下げる。 別になにか考えてたわけじゃなくて、ただ……。