「………わかってる。美咲さんと結ばれる事なんて絶対にないんだって。そんな事、俺も望んでない。
でも頭では諦めようとしていても、心が諦めてくれないんだよ」



カゼは切なさを噛み締めるかのように、下唇を噛んでいた。




「俺も同じだよ。キヨがイノリ以外見るはずないってわかってるのに、諦めようとする俺はいない」


「………無理に諦める必要はない。恋はそんな簡単に諦められるものじゃないからね」




叶わないとわかってて恋をした。


その恋を諦めて、前に進む自分が想像出来ない2人は、同じ場所で足踏みをする事しか出来なかった。






その頃イノリは、いつもの賑やかさと正反対となった部屋で1人泣いていた。



「…今頃泣いてるかな、キヨ。あいつ泣き虫だもんな。……最後まで泣かせることしか出来なくてごめんな、キヨ」




イノリは合鍵を握り締めながら泣いた。



誰もいない1人、孤独な世界で。